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【オランダの祝祭】キングスデーの歴史を解説!起源から現在の祝い方まで

4月27日、オランダ全土がオレンジ色に染まる最大のお祭り「キングスデー(Koningsdag)」。

国王の誕生日を祝うこの祝祭は、アムステルダムの運河を埋め尽くすボートパーティーや、国中で開かれる巨大なフリーマーケットで知られています。

しかし、この熱狂的なお祭りは、単なる誕生日パーティーではありません。その裏には、オランダ王室と国民が紡いできた130年以上の歴史と、国家のアイデンティティが深く刻まれています。

この記事では、キングスデーの歴史をその起源である「プリンセス・デー」から紐解き、各時代の王と共にどう変化してきたのかを詳しく解説します。

さらに、オレンジ色をまとう理由やフリーマーケットの文化、観光で訪れる際の楽しみ方まで、キングスデーのすべてを網羅します。

1. キングスデーの歴史:プリンセス・デーからの変遷

現在のキングスデーに至るまで、この祝祭は君主の交代と共にその名称、日付、そしてスタイルを大きく変えてきました。その歴史は、オランダ王室が国民との関係をいかに築いてきたかを示す物語そのものです。

起源:国民統合の象徴「プリンセス・デー」の誕生 (1885年〜)

キングスデーの起源は、1885年にさかのぼります。当時、ウィレム3世国王の下で王室への支持が揺らいでいました。

そこで、国民的人気の高かった幼いウィルヘルミナ王女の5歳の誕生日(8月31日)を「プリンセス・デー(Prinsessedag)」として祝うことで、国民の結束を高めようという政治的な狙いがありました。

1890年にウィルヘルミナが女王に即位すると、祝日は「クイーンズ・デー(Koninginnedag)」と改称。この時代は主に子供たちのためのお祭りで、女王自身が祝賀行事に参加することはほとんどありませんでした。

国民と共に祝う女王へ:ユリアナ女王の時代 (1949年〜)

1948年にユリアナ女王が即位すると、祝祭のあり方は一変します。

  • 日付の変更: 祝日は女王の誕生日である4月30日に。春の訪れを感じる季節は、屋外での祝祭に最適でした。
  • 花のパレード: 王室一家が宮殿のバルコニーに立ち、国民から花束を受け取る「花のパレード」が始まりました。テレビで生中継されたこの光景は、親しみやすい女王のイメージを国民に定着させ、クイーンズ・デーを真の国民的行事へと押し上げました。

開かれた王室へ:ベアトリクス女王の「移動祝賀会」(1980年〜)

1980年に即位したベアトリクス女王は、祝祭に革命的な変化をもたらします。

  • 日付の維持: 母ユリアナ女王への敬意と、自身の誕生日(1月)が冬であることから、日付は4月30日のまま維持されました。
  • 地方都市への訪問: 「国民が宮殿に来る」のではなく「自らが国民のもとへ行く」というスタイルを導入。毎年、王室一家が異なる地方都市を訪れ、国民と直接交流するようになったのです。これは、現代的で開かれた王室のイメージを確立する上で大きな役割を果たしました。

新時代の幕開け:ウィレム=アレクサンダー国王と「キングスデー」(2014年〜)

2013年、オランダに123年ぶりの国王が誕生。それに伴い、2014年から祝祭は以下のように変更されました。

  • 名称の変更: 「クイーンズ・デー」から「キングスデー(Koningsdag)」へ。
  • 日付の変更: 国王自身の誕生日である4月27日へ。
  • 伝統の継承: ベアトリクス前女王が始めた地方都市訪問の伝統は、現在もウィレム=アレクサンダー国王一家によって受け継がれています。
君主期間祝日名日付主な祝賀スタイル
ウィルヘルミナ1885–1948プリンセス・デー / クイーンズ・デー8月31日子供中心。君主はあまり参加せず。
ユリアナ1949–1980クイーンズ・デー4月30日宮殿での花のパレード(テレビ中継)。
ベアトリクス1980–2013クイーンズ・デー4月30日王室一家が毎年異なる地方都市を訪問。
ウィレム=アレクサンダー2014–現在キングスデー4月27日地方都市訪問の伝統を継承。

2. キングスデーの文化:オレンジ色とフリーマーケットの謎

現代のキングスデーは、いくつかの象徴的な文化で成り立っています。これらはオランダの国民性を深く反映したものです。

なぜオレンジ色?王家「オラニエ=ナッサウ家」との繋がり

キングスデーで国中がオレンジ一色に染まる「オレンジフィーバー(Oranjegekte)」。この色の理由は、オランダ王家の家名「オラニエ=ナッサウ家(Huis van Oranje-Nassau)」にあります。

「Oranje」はオランダ語でオレンジを意味し、その名はスペインからの独立戦争を率いた英雄、オラニエ公ウィレム1世に由来します。オレンジ色を身にまとうことは、王家への敬意と国民の一体感を示す、何よりのシンボルなのです。

国中が蚤の市に!フリーマーケット(Vrijmarkt)の魅力

キングスデーを象徴するもう一つの文化が、全国で開催される「フリーマーケット(vrijmarkt、自由市場)」です。この日だけは、誰もが許可なく路上で私物を販売することができ、国全体が巨大な蚤の市と化します。

これは単なるリサイクルイベントではありません。

  • 商業国家の精神: 歴史的に商業で栄えたオランダの精神(koopman)が表れています。
  • 平等の文化: 子供から大人まで、誰もが商人として参加できます。特に子供たちが商売を学ぶ絶好の機会とされています。
  • 実用主義: 不用品を再利用するオランダ人の実用的な国民性が垣間見えます。

フリーマーケットは、オランダ社会の価値観が凝縮された、生きた文化体験の場なのです。

3. キングスデーの楽しみ方:観光客のためのガイド

キングスデーに参加すれば、忘れられない体験ができること間違いなし。観光客が地元民のように楽しむためのヒントをご紹介します。

どこで祝う?都市ごとの特徴

  • アムステルダム: 最も規模が大きく熱狂的。運河のボートパレードは必見ですが、凄まじい混雑は覚悟しましょう。
  • デン・ハーグ: 前夜祭「キングス・ナイト」の音楽フェスが有名。洗練された雰囲気で楽しめます。
  • ユトレヒト: 国内最大級のフリーマーケットが魅力。アムステルダムよりは地元民が多いのが特徴です。
  • 地方都市: 落ち着いた家族向けの雰囲気を味わいたいなら、小さな町や村を訪れるのがおすすめです。

参加の心得と持ち物

  1. オレンジ色の服を着る: これが一番重要!傍観者ではなく参加者になるためのパスポートです。当日でも街中でアクセサリーなどを購入できます。
  2. 公共交通機関を利用する: 当日は中心部の交通が規制されます。鉄道やバスの特別ダイヤを事前に確認しましょう。
  3. 現金を準備する: フリーマーケットや露店では現金払いが基本です。
  4. 快適な靴を履く: 一日中歩き回ることになります。
  5. スリに注意: 人混みでは手荷物を体の前に抱えるなど、貴重品の管理を徹底しましょう。

結論:単なる誕生日を超えた、国家の魂を映す祝祭

キングスデーは、単なる国王の誕生日祝いではありません。それは、オランダの歴史、商業国家としての精神、そして秩序と自由が共存するユニークな国民性が凝縮された、年に一度の壮大な祝祭です。

王室への敬意は、厳粛な儀式ではなく、国全体で熱狂的なパーティーを繰り広げることで表現されます。この「不敬を通じた敬意」ともいえるユニークな関係性こそ、現代オランダ王室と国民の絆の強さを示しているのかもしれません。

オレンジ色の服を身にまとい、フリーマーケットを散策し、人々と共に国王の誕生日を祝う。キングスデーに参加することは、オランダという国の魂に触れる、最高の体験となるでしょう。

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