
「愛犬に中国語の名前を付けたいな」 「中国ではどんな名前が人気なんだろう?」
近年のペットブームで、中国でも犬は家族の一員として深く愛されています。そして、愛情の表現である「名前」には、その国の文化や時代のトレンドが色濃く反映されるものです。
この記事では、現代中国で人気の犬の名前をランキング形式でご紹介します。
可愛い食べ物の名前から、グローバルな英語名、そして驚きの「フルネーム」まで、その背景にある文化や社会の変化を分かりやすく解説します。
日本やアメリカとの違いも比較しながら、中国の犬の名前の奥深い世界にご案内します。
目次
1.中国で人気の犬の名前「最新トレンド4選」
時間がない方のために、まずは現代中国における犬の命名トレンドを4つのカテゴリーに分けてご紹介します。
- 食べ物・飲み物の名前: 最も人気のスタイル。「可愛い」「美味しそう」といったイメージから名付けられます。(例:包子 Bāozi / 肉まん)
- グローバルな英語名: おしゃれで国際的な響きが好まれます。(例:Coco, Lucky)
- ユニークなフルネーム: 幸運を願う、人間のような「姓+名」を付けます。(例:张发财 Zhāng Fācái / 張 大儲け)
- 伝統的な見た目の名前: 犬の毛色や特徴からシンプルに名付けます。(例:阿黄 Ā Huáng / 黄色ちゃん)
それでは、これらのトレンドを具体的な名前と共に、さらに詳しく見ていきましょう。
中国の犬の名前「食べ物・飲み物編」
特に若い飼い主の間で圧倒的な人気を誇るのが、食べ物や飲み物にちなんだ名前です。その理由は「可愛らしく、呼びやすい」から。まるで美味しいおやつのような、愛らしい名前がたくさんあります。
- 包子 (Bāozi / バオズ):肉まん
- 可乐 (Kělè / コーラ):コーラ
- 布丁 (Bùdīng / プーディン):プリン
- 奶茶 (Nǎichá / ナイチャー):ミルクティー
- 汉堡 (Hànbǎo / ハンバオ):ハンバーガー
- 蛋黄 (Dànhuáng / ダンホアン):卵の黄身
ここで興味深いのは、選ばれる食べ物が伝統的な主食(お米や麺)ではなく、「コーラ」や「ハンバーガー」といった現代的で西洋の影響を受けたものが多い点です。
これは、ペットが若者文化や都市的なライフスタイルを象徴する存在になっていることを示しています。
中国の犬の名前「おしゃれな英語・外国語編」
グローバル化に伴い、英語の名前も非常に人気があります。世界共通で通用する名前は、モダンでおしゃれな印象を与えます。
- Coco (ココ):日本でも大人気。おしゃれな響きの代表格です。
- Lucy (ルーシー):世界中で愛される定番の名前。
- Lucky (ラッキー):幸運を願う気持ちを込めて。
- Luxury (ラグジュアリー):少しユニークですが、「贅沢」や「高級」な暮らしへの憧れを込めた名前です。
特に「Lucky」や「Luxury」といった名前は、単なる響きだけでなく、飼い主の「豊かになりたい」「幸せでありたい」という願いがペットに託されている、現代中国ならではのトレンドと言えるでしょう。
中国の犬の名前「縁起の良いフルネーム編」
おそらく、最も文化的でユニークなトレンドが、犬に「苗字」までつけた人間のようなフルネームを授けることです。
- 李富贵 (Lǐ Fùguì / リ・フーグイ):「裕福で高貴」という意味。
- 张发财 (Zhāng Fācái / ジャン・ファーサイ):「大儲けする」という意味。
- 王狗蛋 (Wáng Gǒudàn / ワン・ゴウダン):「ゴウダン(犬の卵)」は昔ながらの素朴な名前ですが、苗字を付けることで現代風にアレンジされています。
この背景には、一人っ子政策などの影響で、若者たちがペットを「自分の子供」のように捉え、深い愛情を注いでいる社会状況があります。家族の姓を与え、さらに富や繁栄を願う名前を付けることで、犬を名実ともに「家族の一員」として迎え入れているのです。これは、「ペットは家族」という考え方の、中国独自のユニークな表現方法です。
中国の犬の名前「見た目で名付けるシンプル編」
もちろん、昔から続く伝統的な名付け方も健在です。犬の色や見た目の特徴から、シンプルで直感的に名前を付けます。
- 阿黄 (Ā Huáng / アホアン):黄色の子犬(茶色い犬)の定番。
- 大黒 (Dà Hēi / ダーヘイ):大きくて黒い犬。
- 小白 (Xiǎo Bái / シャオバイ):小さな白い犬。
- 長毛 (Chángmáo / チャンマオ):毛が長い犬。
こうした素朴な名前は、時代を超えて愛され続けています。
2.昔の中国ではどんな名前が犬に付けられていたのか
現代のトレンドとは対照的に、歴史を遡ると、犬の名前はその役割や飼い主の地位を反映した、非常に荘厳なものでした。
清王朝・皇帝の猟犬たち
乾隆帝に愛された10匹の猟犬には、イエズス会士の画家ジュゼッペ・カスティリオーネ(郎世寧)による肖像画が残っています。その名前は、力強さや速さを詩的に表現した、二文字の漢字が使われました。
霜花鹞 (Shuānghuā Yào)
霜の花のハイタカ(速さの象徴)
睒星狼 (Shǎnxīng Láng)
きらめく星の狼(獰猛さの象徴)
唐王朝・宮廷のペット
唐の時代、宮廷では海外から献上された珍しい小型犬が流行しました。その名前は、出身地を示す異国情緒あふれるものでした。
康国狷子 (Kāngguó juànzǐ)
サマルカンドから来た小犬
皇帝や貴族にとって、犬は権力や富の象徴であり、その名前もまた、彼らの威光を示す重要な役割を担っていたのです。
3.中国の犬の名前は、世界の犬の名前と比較してみよう
中国の犬の名前のトレンドは、他の国と比べてどのような特徴があるのでしょうか。
日本との比較:「可愛い」の共通点と、表現の違い
日本でも「ココ」や、食べ物にちなんだ「ムギ」「マロン」といった名前が人気で、"可愛い"と感じる感覚は中国と共通しています。
大きな違いは、中国の「縁起の良いフルネーム」のトレンドです。日本では犬に「鈴木 太郎」のように姓と名を付ける習慣は一般的ではありません。
この点に、ペットを家族の系譜に完全に統合しようとする中国のユニークな価値観が見て取れます。
アメリカとの比較:ポップカルチャーの影響力
アメリカでは、人気の映画やドラマの登場人物の名前(例:ディズニー映画の『ミラベル』)がトレンドになる傾向が強く見られます。
一方、中国のトレンドは、特定の作品の影響というよりは、国内の消費文化(食べ物)や、富と幸運を願う伝統的な価値観に、より深く根差しているようです。
まとめ:犬の名前は、変化する中国を映し出す鏡
カテゴリー | 代表的な名前(日本語訳) | 文化的背景 |
食べ物・飲み物 | 包子 (肉まん), 可乐 (コーラ) | 若者文化、消費文化の象徴 |
英語・外国語風 | Coco, Lucky (ラッキー) | グローバル化、幸運への願望 |
縁起の良いフルネーム | 张发财 (張 大儲け) | ペットの家族化、伝統的な価値観 |
伝統的な見た目 | 阿黄 (黄色ちゃん) | シンプルで普遍的な命名法 |
中国における犬の名前は、皇帝の権威の象徴であった「霜花鹞(霜の花のハイタカ)」から、現代の家族愛の形である「张发财(張 大儲け)」まで、時代と共に大きく変化してきました。
ペットに付ける名前は、単なる呼び名ではありません。そこには、飼い主の愛情はもちろん、その社会の価値観、ライフスタイル、そして人々の願いが詰まっています。
これから中国社会がどう変化していくのか、そのヒントは、街角で愛される犬たちの名前に隠されているのかもしれません。